> 醤油の原料の大豆、小麦、塩はどういった物を使用されているのでしょうか? どんな腕前、技術をもってしても原材料以上の物は決して出来ないと思います。 私共が原料を脱脂大豆から丸大豆に切り替えたのも、お客様に説明のつかない もので醤油を造りたくないと言う思いからでした。 さて、私共の使用原料ですが、多少のうんちくとともに・・・ 大豆 天然醸造醤油、自家用たまり醤油、重ね仕込み醤油は輸入の大豆を使用 しています。(アメリカ産です) 淡色天然醸造醤油は国内産の大粒大豆を使用しています。(滋賀県産です) なぜ輸入大豆なのか、なぜ大粒なのかについてご説明をさせていただきます。 農産物である大豆は、正に千差万別。 品種、等級、粒の大きさ、目玉の色、・・・ 最近は国内の種子を海外で栽培したものもあります。 有機栽培のもの。遺伝子組換えのもの。 本当に沢山の選択肢があります。 大豆は鞘の中に出来る穀類ですので、鞘の中央部は大きな粒が、 端の方には小さい粒が入ります。 (ビールのつまみのさやえんどうをイメージしていただけるとよろしいかと) つまりは大粒も小粒も一緒に出来てしまいます。 また、大豆は空気中の窒素を種子の中に固定するので、 さほど肥料を必要としません。 その代わり、害虫に大変弱く、無農薬での栽培は非常にリスキーです。 (現実には収量が非常に少ないです) 国内産の大豆は見た目と煮たときの色の白さに力点を置いて品種改良 されてきています。 アメリカ産の大豆は製油原料(と脱脂大豆が飼料)として、油含有率と 蛋白含量が重視されます。 日本では製油メーカーの副産物が脱脂大豆ですが、 アメリカでは飼料メーカーの副産物が大豆油と言う感じです。 さて本題ですが、 見た目重視の国内産大豆は農薬散布量が多めです。 反面コスト意識の強い輸入大豆ではかえって農薬使用量は最小限です。 (特に有機栽培などでなくても、残留農薬は検出されません) ポストハーベスト。即ち穀物倉庫での燻蒸についても、 晩秋に採れた新穀を北半球内で移動するぶんにはさほどの量ではありません。 逆に、定温倉庫に入っていない内地産大豆の燻蒸は強烈です。 私は国内産=安全とは言えないと思っています。 更に、醤油屋として原料大豆に求めるのは、均一さです。 大豆の旨みを充分に引き出すには、諸味の中で触れば潰れるくらい軟らかく なって欲しいのですが、塩水に何年つけておいても蒸しあがった直後の軟らかさ より軟らかくなることはありません。 大豆を蒸す時の条件設定として、とにかく軟らかく蒸し上げる。 もうこれ以上少しでも蒸すと潰れてどろどろになってしまう。というところまで 蒸したいのです。 この時、早く蒸せてしまう豆となかなか蒸せない豆が混在していると非常に 厄介です。 出来る事なら、同じ品種はもちろんのこと、同じ畑で採れたもので仕込みを したいのが醤油屋なのです。 業界暴露話のようになりますが、国内産大豆と称していても、 1等から6等まである等級にさえ乗らない等外のものもあります。 等外の大豆なら安くて済みますが、上記の均一さなど望むべくもありません。 多分に情緒的な部分もありますが、私共はクズ大豆で醤油は作りたくありません。 たとえ内地産の表示が出来てもです。 ちなみに今年(平成11年初頭)の相場で、 国内産1等は100万円/1トン程度(もっと高いものもあります) 国内産等外は10万円/1トン前後 輸入大豆は6万円/1トンです。 このような色々な条件を勘案して、私共では淡色系以外の醤油には アメリカ産の大豆を使用しています。 なお遺伝子組換えについては、麹菌の酵素の分解により、 蛋白質(遺伝子も含まれます)はバラバラに分解され、 もはや元がなんであっても関係無くなっていますので、 こと醤油に関しては気にする必要は無いと思っております。 (味噌、醤油に関して、遺伝子組替えか否かは分析しても検出不可能です) 有機栽培の大豆については、一昨年、お客様には内緒で(^_^;)仕込みの半量 使ってみましたが、品質風味に変わりが無かったのと、 アメリカの民間認証団体がいい加減な証明書を乱発するのを見て、 (有機栽培大豆とそれを使用した味噌醤油から農薬が検出されました) 止めてしまいました。 淡色天然醸造醤油に大粒の国内産大豆を使用するのはひとえに表面積を小さく したいからです。 蒸しあがった大豆は空気に触れるとたちまちのうちに色がついていきます。 大粒の大豆は同じ重量でも空気に触れる面積を小さく出来ますので、淡色に 仕上げるのに有利です。 淡色天然醸造醤油が高いのはこの15倍!する原料大豆の為です。 蛇足ですが自家用たまり醤油が高いのは、呆れるばかりの収量の少なさです。 同じ量の諸味を絞ってもこいくちの半分出るか出ないか・・・ 長くなっておりますが、どうかお付き合いの程を。 小麦 日清製粉で醤油用に加工した小麦を使っております。 製粉屋は、小麦の部分部分を自由に取り出す技術を持っています。 醤油用に特に蛋白質の多いところを集め、更に小麦の皮の部分(麩) の含有率を変えた数種類の製品を持っています。 麩(ふすま)は、醤油の着色に大きな影響があり、たとえばうすくち用の ものには麩は入っていません。 色調をコントロールできるということでこの小麦を使っています。 もう1点。この小麦は蒸煮処理で作られています。 醤油屋は普通小麦は炒ります。熱くした砂と混ぜ合わせたり、大手では 熱風焙煎装置を用いたりしています。するとどうしても一部が焦げます。 "焦げ"はどうも好かないのです。 小麦(の皮)の焦げの発ガン性や毒性はまだ報告がありませんが、 敢えて危ない橋を渡ることは無いと思っています。 塩 原塩という塩を使っています。 字の通り原料の塩です。食塩の原料とでも申しましょうか。 ザラメのような粗い結晶で、舐めても美味いです。ついでに一番安い塩です。 オーストラリアなどでやたら広いプールにザァーっと海水を入れ、 乾くまで放っておいて、結晶したらかき集めてそれでおしまいです。 よって不純物(ニガリやミネラルとも言いますが)は多いです。 溶解した塩水は完全に透明ではありません。 塩屋ではこの原塩を一度溶いて、再濃縮再結晶させて市販の塩を製造しています。 なぜわざわざ手間隙かけて不味くするのか理解に苦しむところですが、 これを補うのに塩の結晶に味の素をコーティングしたりしています。 (これがいつまでもサラサラしている理由です) 近所で漬物に凝りまくっている人がいますが、私共の原塩を使うと 味が違うそうです。なぜ高い塩が不味いのかと憤っておられます。 NaClの純度を高めればグレードの高い塩となるのかもしれませんが、 調味料としてのグレードは別のもののようです。 「赤穂のあま塩のようなものは使わないのか?」と蔵を見学された方に 質問されたことがありますが、赤潮漂う海水を煮詰めたら体に悪いでっせと 応えたらちょっとビックリされていました。 ちなみに「赤穂のあま塩」は今は日本海の綺麗な海水を煮詰めているそうです。 私はオーストラリアならもっと綺麗だと思っています。 私共の使用する原料は謳い文句、セールスポイントとしては 魅力に乏しいものですが、 基本的に原料選定は 本当に安全で 食品としてまっとうな扱いを受けていて、 それを使用した醤油が美味しく その範囲で安いもの を基準にしております。