ようこそ、こんな深いところまでいらして下さって感謝申し上げます。
一途(馬鹿・・とも言えますが・・・)な醤油屋の思いっきり”濃い”お話です。



安心、安全を売り文句にする食品がありますが、
とんでもないと思います。
食品である以上、どんなにコストを節減しても安心、安全であることは
当然の前提条件ではないでしょうか。
ましてお客様からお金をいただいてお売りする”商品”の安全性が取りざたされるとは情けない世の中です。
で、
お客様に説明のつかないもので醤油を造りたくない。
お客様に誇らしく説明できるもので醤油を作りたい。
と言う思いから原料の選定を行っています。

どんな腕前、技術をもってしても原材料以上の物は決して出来ないと思います。

弊店使用の大豆は

下記の特別な原料を使う醤油以外の醤油は
主に(と言うか殆ど)奈良県産大豆を使用しています。
奈良県産大豆をできるだけたくさん使うようにしています。
奈良の醤油屋ですから、奈良県で大豆栽培でがんばってる方の大豆を使いたい。
近くで採れたものを使わせてもらおうと思っています。
奈良県産大豆、量こそ少ないのですが、品質とか価格は他の産地に引けはとりません。
主に・・・と言うのは、どうも奈良県産大豆は入札に出てくるのが3月ごろと遅く、
年明け早々から仕込み始める弊店の原料手当てに間に合いません。
前々年収穫のものを予約して使わざると得ないのです。
予約しておいて売れ残りになる寸前まで保管していただくのですから、
何が何でも全量いただかねばなりません。
そうすると大雑把に多めにお願いすることはできないわけで、
ほんの少し足りない分だけ最小限他県産大豆も使わざると得ません。
表示の規定によってたとえ99%奈良県産大豆でも他の県産大豆が混じる場合は
使用割合を明記せよとなっておりまして・・・
奈良県産大豆使用とラベルに明記できないのです。
自給率向上のためにも、無駄な輸送を省くためにも、そしてがんばる農家さんのためにも
県内大豆使用を表示したいものです。
ここ数年、奈良県産大豆の収穫量は約50トン。そのうち30トンは契約栽培、引き取り。
残りの20トンが市場に出回るのですが、そのうち半分くらいを弊店で使わせてもらっています。

有機うすくちしょうゆを限定された販売先のために製造していますが、
(卸売りのみで弊店では販売していません)
金沢農業の井村さんが作った有機大豆と有機小麦で仕込んでいます。
有機大豆は全国で900トンくらいしか採れません。
井村さんはそのうち400トンくらい作ってしまう凄い農家さんですが、
その貴重な大豆を毎年2トン、まわしてもらっています。

青大豆醤油は士別市の北海道ルーツファーム産の青大豆のみ使用しています。
青大豆は普通は醤油醸造できるほどの量がまとまって栽培されることはありません。
収穫が手作業で大変なのと、栽培が難しいので、栽培農家さんにとってリスクが多いいからです。
ルーツファームの斉藤さんは弊店の青大豆醤油のために青大豆を栽培してくださっています。
大きくラベルなどに謡うことはありませんが、無農薬栽培です。涼しい士別だから無農薬でできるのだそうです。
この大豆の蒸しあがったときの美味しさ、甘さは言葉にできないほど・・・

隣の県の和歌山県橋本市で無農薬、無肥料栽培に取り組むグループの皆さんから
収穫された大豆と小麦をお預かりして醤油にしてお返しする仕事もしています。

いやはや・・いつの間にか凄い大豆が揃ったものだと思います。
確かに、大豆代は安くは無いのですが、納得する醤油作りができるなら・・・


ここからは大豆に関するいろんなお話です。

農産物である大豆は、正に千差万別。
品種、等級、粒の大きさ、目玉の色、・・・
国内の種子を海外で栽培したものもあります。
有機栽培のもの。遺伝子組換えのもの。
本当に沢山の選択肢があります。

大豆は鞘の中に出来る穀類ですので、鞘の中央部は大きな粒が、
端の方には小さい粒が入ります。つまりは大粒も小粒も一緒に出来てしまいます。
(ビールのつまみの枝豆をイメージしていただけるとよろしいかと)
(ちなみに、未熟な大豆が枝豆です)

また、大豆は空気中の窒素を種子の中に固定するので、
さほど肥料を必要としません。その割に連作障害もあります。
害虫には大変弱く、無農薬での栽培は非常にリスキー・・というか、実質無理です。

国内産の大豆は見た目と煮たときの色の白さに力点を置いて品種改良
されてきています。
蛋白含量といい、加工特性といい、日本の大豆は価格以外は世界一だと思います。

アメリカ産の大豆は製油原料(と脱脂大豆が飼料)として、油含有率と
蛋白含量が重視されます。
日本では製油メーカーの副産物が脱脂大豆ですが、
アメリカでは飼料メーカーの副産物が大豆油と言う感じです。


更に、醤油屋として原料大豆に求めるのは、均一さです。

大豆の旨みを充分に引き出すには、諸味の中で触れば潰れるくらい軟らかく
なって欲しいのですが、塩水に何年つけておいても蒸しあがった直後の軟らかさ
より軟らかくなることはありません。
大豆を蒸す時の条件設定として、とにかく軟らかく蒸し上げる。
もうこれ以上少しでも蒸すと潰れてどろどろになってしまう。というところまで
蒸したいのです。
この時、早く蒸せてしまう豆となかなか蒸せない豆が混在していると非常に
厄介です。

国内産大豆は品種や状態によって水に漬ける時間や蒸煮条件を思い切って変えないと
うまくいきません。すばらしい大豆ですが、使いこなすのは難しいです。


小麦

特別な原料を使用する醤油以外のものは
日清製粉で醤油用に加工した小麦を使っております。
国内産大豆がベスト。それと同じ価値観で、この原料が醤油の原料としてベストと思っています。
原料小麦は国内産と輸入、両方を使っています。
製粉屋さんは、小麦の部分部分を自由に取り出す技術を持っています。
醤油用に特に蛋白質の多いところを集め、更に小麦の皮の部分(麩)
の含有率を変えた数種類の製品を持っています。
麩(ふすま)は、醤油の着色に大きな影響があり、たとえばうすくち用の
ものには麩は入っていません。
色調をコントロールできるということでこの小麦を使っています。
もう1点。この小麦は蒸煮処理で作られています。
醤油屋は普通小麦は炒ります。熱くした砂と混ぜ合わせたり、大手では
熱風焙煎装置を用いたりしています。するとどうしても一部が焦げます。
"焦げ"はどうも好かないのです。
小麦(の皮)の焦げの発ガン性や毒性はまだ報告がありませんが、
敢えて危ない橋を渡ることは無いと思っています。


原塩という塩を使っています。
字の通り原料の塩です。食塩の原料とでも申しましょうか。
ザラメのような粗い結晶で、舐めても美味いです。ついでに一番安い塩です。
オーストラリアなどでやたら広いプールにザァーっと海水を入れ、
乾くまで放っておいて、結晶したらかき集めてそれでおしまいです。
よって不純物(ニガリやミネラルとも言いますが)を含みます。
溶解した塩水は完全に透明ではありません。
しかし、水分が少ないため純度は97%と相当なものです。
塩屋ではこの原塩を一度溶いて、再濃縮再結晶させて市販の塩を製造しています。
なぜわざわざ手間隙かけて不味くするのか理解に苦しむところですが、
これを補うのに塩の結晶に味の素をコーティングしたりしています。
(これがいつまでもサラサラしている理由です)
近所で漬物に凝りまくっている人がいますが、私共の原塩を使うと
味が違うそうです。なぜ高い塩が不味いのかと憤っておられます。
塩のグレードと調味料としてのグレードは別のもののようです。

「赤穂のあま塩のようなものは使わないのか?」と蔵を見学された方に
質問されたことがありますが、赤潮漂う海水を煮詰めたら体に悪いでっせと
応えたらちょっとビックリされていました。
ちなみに「赤穂のあま塩」は今は日本海の綺麗な海水を煮詰めているそうです。
私はオーストラリアならもっと綺麗だと思っています。

最後に 水。
原材料に水は欠かせないものですが、実際には醤油の6割くらいが水です。
(液体のくせに水分が6割しかないのが凄いのですが。エキスと塩分で40%あります)

弊店の仕込み水は蔵の中の井戸から汲み上げています。
深い井戸ではありません。十数メートルです。
しかしこの浅い井戸から1日5000リットル以上沸いています。
水質は超軟水。山麓ですので、岩盤が傾斜していて地下水の流れも速く、
地表から浸透して間もない水のようです。
使い込んだ木桶とこの井戸水あっての片上醤油です。